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マスクして子育て

コロナ禍、毎日の生活にマスクが欠かせないものとなってから、既に2年以上が経ちました。
誰もこんなに長く続くとは思っていなかったことでしょう。
あの頃の赤ちゃん達も、既に2歳になりました。
私たち大人も、マスク生活にすっかり慣れてきてマスクは顔の一部化してきています。

私自身では、最近本当に人の顔の認識が悪くなったと自覚するようになりました。
歳のせいといえば身も蓋もありませんが、長いマスク生活で人の顔がよくわからなくなってきたように思います。
インフルエンザワクチンの際に、保護者の方の接種でのどを見るためにマスクを外していただきます。
そこでお顔を拝見して、「初めまして」と思うことが度々ありました。
何度もお目にかかっていても、目元だけでは実は全然わかっていなかった、顔として認識できていなかったと悟りました。
目以外に認識できていたのは、声と姿です。
しかし、声もマスク下では聞き取りにくくなってきています。
大人の私でさえこんな調子なのに、これから成長する子ども達や赤ちゃんにはどんな影響があるのでしょうか。

「赤ちゃんは顔を読む」https://onl.la/tv18nRk という本が面白かったので、一部をご紹介します。
生まれたばかりの赤ちゃんでも、大人と同じように顔を見ていて、目、鼻、口が正しい位置にあれば顔と認識しています。
しかし、大人のように上手にヒトの顔を区別することはできません。
生後3か月の赤ちゃんは、大げさな微笑みを好むようになります。
この頃はまだ髪型を変えるとママと認識できなくなることがあります。
生後4か月くらいになると、髪型を隠してもママの顔を好むようになります。
生後6カ月頃になるとヒトの顔を区別できるようになります。
面白いことに、この時期はサルの顔もヒトの顔も個体を区別できるそうです。
生後7カ月では、表情と声色をセットで認識できるようになります。
生後10カ月では表情の区別ができるようになります。
この頃になると、ヒトの顔の区別はできてもサルの顔の区別がつかなくなるそうです。
同時に、音声の聞き取りについても、母国語しか区別できなくなってくるそうです。
表情を見分ける力と音声を聞き取る能力が、ちょうど同じ頃に発達するそうです。

生後半年から1歳くらいの赤ちゃんは、ひとみしりといって、見覚えのない顔を見て泣きだすことがあります。
ひとみしりには、誰が知っている人で、誰が知らない人か、一つ一つの顔を認識できる必要があります。
この判断ができるようになるには、たくさんの顔を見るという経験が必要です。

「社会的参照」という言葉を聞いたことがありますか?
「視覚的断崖」というもの有名な実験があります。
赤ちゃんを高さのある台に乗せます。この台の半分を透明にして下が透けて見えるようにします。
その透明な台を渡って、赤ちゃんが向こう側に行けるかどうかを試します。(図参照)
この時ママは、台の向こう側から赤ちゃんを見守っています。
生後12か月の赤ちゃんは、ママが不安げな表情を示すと止まってしまいます。
でも、微笑んだママの顔を見ると安心して前進します。

ママが微笑むのは安全のサイン、ママが不安そうなのは危険なサインというわけです。
赤ちゃんはママの表情を見て、自分の行動を決めているのです。
この現象を「社会的参照」といいます。
赤ちゃんは、1歳ですでにママの表情を読み取り、そこから安全かどうか確認し学習していきます。
マスクをして表情を見せないで育児をすることは、赤ちゃんから多くの経験を積んで学習する機会を奪うことにつながります。
赤ちゃんの脳は、周りからの刺激を適した時期に受けることで発達する仕組みになっています。
期限内に十分な環境に出会うことができないと、発達が不十分になる危険性があります。

私は毎月園医として、0歳の赤ちゃん達の健診に保育園に出向きます。
入園したばかりの初めの1~2か月は、保育園での生活に慣れても診察時には大泣きしてしまう子が多いのですが、
回数を重ねるとだんだん泣かなくなります。
でもコロナ禍以来、何カ月経っても泣かれてしまうことが多くなったように思います。
保育室に、見慣れない人(私の事です)が入っていくだけで警戒して泣いてしまうようです。
マスクをすることで相手の表情もわからなくなり、人との距離感も違ってくるのではないでしょうか。

おうちではマスクをせずに向き合っていても、外出先ではそうもいかないものです。
マスク育児で、心がけたいことをいくつか挙げてみました。
目と目を合わせましょう
アイコンタクトをしっかり取りましょう。
口元を見ることができない分、目で気持ちを伝えましょう。
目は口ほどに物を言うといいます。
目が合ったら、大きくうなづいてあげましょう。
喜怒哀楽の表情をしっかり見せましょう
マスクをしていたら、大げさなくらいの表情をしないと伝わりません。
はっきりとした声で、声かけもしましょう。
触れ合いましょう
人との距離が生まれることの多い今、家族同士はしっかり触れ合ってぬくもりを感じましょう。
手をつないだり、頭をなでたり、頬に触れたりしてあげてください。
身振り手振りを交えるのもいいですね。

ところで、このマスク生活は、いつまで続くのでしょうか?
海外では、もはやマスクを着けずに大勢の人が集まっている国も多いです。
日本は、屋外であってもマスクなしで歩いている人はほぼ見かけません。
私は早朝や夜に愛犬の散歩で出歩くのですが、こんな時のマスクなんて不要ではないかといつも思っています。
でも今、マスクを外すのには、相当な勇気と覚悟が必要です。
科学的にどうこうというよりも、周りからの非難の目に耐えられないような気がします。
今年のGWは、久しぶりに行動制限がなく人々の移動も徐々に戻ってきたといわれています。
これからは、マスクをいつ、どのような状況になったら外せるかが話題になってくることと思います。
具体的な指標となるものが明確になると、マスクを外すきっかけになることでしょう。
せめてTPOに合わせてマスクのON・OFFできるような生活になって欲しいですね。

冬には地上の部分は枯れ枝だけになってしまうクレマチスですが、
春になると一気に芽吹き こんなに豊かに花を咲かせてくれます。

 

 

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